相撲は国技か|政府に国技を定める基準はない。答弁書と日本相撲協会の定款、二つの原文で確かめる

国が「これが国技」と認定する仕組みそのものがない。政府は2011年(平成23年)の答弁書で「政府として、国技の認定の基準、考え方等を定めたものはない」と答えている。一方で日本相撲協会は、自らの定款の第3条に「我が国固有の国技である相撲道」と書いている。国の側に認定の仕組みが無く、協会の側は自分たちの目的を記した文書に国技と書いている——この二つが、原文で確かめられる事実のすべてである。どちらの言い方を採るかは、この2本を読んでから決めてほしい。

出典: 衆議院第177回国会 答弁第一〇七号(平成23年3月8日受領)と、公益財団法人日本相撲協会定款(令和4年3月28日施行・PDF)。いずれも2026年9月17日に取得。相撲の成り立ちそのものは相撲の歴史と起源|神事から大相撲までへ。

目次

誰が、どこに、何と書いているか|原文の一覧

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この問いは、言い換えや要約を重ねるほど分からなくなる。国の文書と協会の文書を、書かれている言葉のまま並べる。要約はせず、かぎ括弧の中はすべて原文である。

誰がどの文書いつの文書か書かれている言葉(原文)
政府(内閣総理大臣 菅直人)衆議院 答弁第一〇七号「一について」平成23年(2011年)3月8日受領「政府として、国技の認定の基準、考え方等を定めたものはない」
政府(同)同 答弁書「一について」「『国技』とは、例えば、『その国特有の技芸。一国の代表的な競技。(出典 広辞苑)』とされていると承知している」
政府(同)同 答弁書「三及び四について」「協会が相撲を国技と称するか否かについては、協会が適切に判断すべきものと考えている」
文部科学省同 答弁書「五について」「現時点において、特定の競技種目に対し、お尋ねのような特別の位置付けを与えることは考えていない」
日本相撲協会定款 第3条(目的)令和4年(2022年)3月28日施行「我が国固有の国技である相撲道の伝統と秩序を維持し継承発展させるために」
日本相撲協会公式サイト「相撲の歴史」2026年9月17日確認「国技といわれ日本の伝統文化である相撲」
日本相撲協会公式サイト「相撲博物館について」2026年9月17日確認「国技としての相撲資料の散逸を防ぐため、昭和29年(1954)9月、蔵前国技館の完成と同時に開館しました」
出典: 衆議院「衆議院議員馳浩君提出国技としての大相撲のあり方に関する質問に対する答弁書」(第177回国会・答弁第一〇七号)、公益財団法人日本相撲協会「定款」(PDF・業務・財務情報の定款等に掲載)、同「相撲の歴史」、同「相撲博物館について」。全7行を2026年9月17日に取得して書き写した。要約・言い換えはしていない

政府は何と答えたか|2011年の答弁書に「定めたものはない」とある

国会には、議員が文書で質問し、内閣が文書で答える仕組みがある。質問主意書と答弁書という。2011年(平成23年)2月28日、馳浩衆議院議員が「国技としての大相撲のあり方に関する質問主意書」を提出した。一番目の質問はこうだった。「国技に対する一般的な基準やイメージについて、政府はどのように理解しているか見解を示されたい」

同じ年の3月8日、内閣総理大臣 菅直人の名で答弁書が出た。冒頭の「一について」に、辞書の定義を引いたあと、こう続く。「なお、政府として、国技の認定の基準、考え方等を定めたものはない」。書かれているのは「基準が無い」という報告ではない。基準も考え方も定めていない、という書き方である。国が何かを国技として認定する制度そのものが存在しない、と読める。

続く「三及び四について」では、協会が自分たちの文書で相撲を国技としていることを政府は承知していると認めたうえで、「協会が相撲を国技と称するか否かについては、協会が適切に判断すべきものと考えている」と書いている。国は口を出さない、という立場である。さらに「五について」で文部科学省は、特定の競技に特別の位置付けを与えることは考えていない、とした。

この答弁書は平成23年、つまり2011年のものである。2026年9月17日の時点で、これを覆す法令や新しい答弁書は見つかっていない。ただし「見つかっていない」は「存在しない」とは違うので、ここではそう書いておく。

協会は何と書いているか|定款の第3条に「我が国固有の国技である相撲道」

日本相撲協会は公益財団法人で、その根本規則は定款という。協会は定款を公式サイトの「業務・財務情報」にPDFで置いている。目的を定めた第3条の書き出しはこうである。

この法人は、太古より五穀豊穣を祈り執り行われた神事(祭事)を起源とし、我が国固有の国技である相撲道の伝統と秩序を維持し継承発展させるために、本場所及び巡業の開催並びにこれを担う人材の育成、相撲道の指導及び普及、相撲記録の保存及び活用、国際親善活動を行うと共に、これらに必要な施設を維持及び管理運営し、もって相撲文化の振興と国民の心身の向上に寄与することを目的とする。

公益財団法人日本相撲協会 定款 第3条(目的)。附則に「この定款は、令和4年3月28日から施行する」とある(PDF・2026年9月17日取得)

同じ文言は、協会公式サイトの「協会の使命・組織」にも「目的と運営」として掲げられている。定款という法人の背骨に書かれているのだから、協会にとってこれは看板の文句というより、団体の目的そのものである。

ここで一つ、時期の話をしておきたい。2011年の答弁書が引いたのは当時の「寄附行為」で、協会が公益財団法人へ移る前の呼び名である。答弁書と現在の定款では、政府が写した文言と協会が今掲げている文言に細かい違いがある。並べるとこうなる。

いつ・どの文書その中の言葉
2011年の答弁書が引いた、当時の寄附行為相撲を「わが国固有の国技である」としている(答弁書の書き方による)
2022年3月28日施行の、現在の定款 第3条「我が国固有の国技である相撲道の伝統と秩序を維持し継承発展させるために」
上の行は答弁書に書かれた政府側の記述で、当サイトは当時の寄附行為そのものを取得していない。下の行は協会の現行定款PDFの原文(2026年9月17日取得)。どちらも「我が国固有の国技」という言い回しを含むが、寄附行為の原本に当たっていないので、文言が一字一句同じだったかどうかは書かない

「国技館」という建物の名前|言葉はこの屋根の下に残っている

相撲を見に行くと、国技という言葉は建物の名前として目に入る。両国国技館である。田口は「かつてこのテーマを書いたとき、明治42年の国技館開設とした。天候に左右されずに、興行が予定通り行われる。これは画期的なことだった」と書いている(国技館誕生は団体戦の始まり・2016年4月16日)。別の記事では、常設館の機運が明治39年に起こったこと、設計者が辰野金吾だったこと、2年弱の工期で明治42年(1909年)に完成したことを記している(知られざる旧両国国技館・2017年6月18日)。

その建物がなぜ「国技館」と名づけられたのか、誰が名づけたのかについては、協会の公式サイトと相撲博物館のページを2026年9月17日に探した範囲で記載が見つからなかった。裏の取れない由来を書くより、書かないほうを選ぶ。ここで言えるのは、明治末に建った常設館がこの名を持ち、今の館もその名を継いでいる、というところまでである。

初場所の初日前日、幟の向こうに見える両国国技館の屋根
両国国技館の屋根(2012年1月7日・初日前日)。緑の大屋根の上に金色の頂が乗る。
秋場所の国技館前に並ぶ幟と櫓
国技館前の幟と櫓(2021年9月15日・秋場所四日目)。

写真:田口 通廣(撮影)。撮影日はファイル名の日付による。

「相撲は国技ではない」と言われるのはなぜか

検索では「相撲 国技ではない」という語が使われている。その言い方が生まれる理由は、上の表を見ればはっきりする。法令や政府の認定という意味での国技なら、政府自身が「定めたものはない」と書いているので、そこに相撲は無い。同じ意味では、ほかのどの競技も無い。

一方、協会の文書という意味での国技なら、相撲道は国技と書かれている。この二つは食い違っているのではなく、層が違う。国の制度の話と、一つの法人が自らの目的をどう書いているかの話である。答弁書もそこを分けていて、協会が国技と称するかどうかは協会が判断すること、としている。

だから、どちらの言い方も間違いにはならない。誤りになるのは「法律で国技と決まっている」と書くときだけで、これは答弁書1本で崩れる。逆に「協会は国技と称していない」と書くのも、定款の第3条で崩れる。原文にあたれば、どちらの誤りも避けられる。

なお協会は、場面によって言い方を変えている。定款では「我が国固有の国技である相撲道」と書き切る一方、公式サイトの「相撲の歴史」では「国技といわれ日本の伝統文化である相撲」と、伝聞の形にしている。両方とも協会が出している言葉である。

相撲と国技についてよくある質問

Q. 相撲は国技ですか?
答えは「どの意味で聞くか」で変わります。法令の意味では、政府が2011年の答弁書で「国技の認定の基準、考え方等を定めたものはない」と答えており、国が認定した国技という枠組み自体がありません。日本相撲協会の意味では、定款の第3条に「我が国固有の国技である相撲道」とあります。

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Q. 日本の正式な国技は何ですか?
政府が認定の基準も考え方も定めていないため、国が正式に指定した国技というものは、2026年9月時点で確認できません。文部科学省も同じ答弁書で、特定の競技に特別の位置付けを与えることは考えていない、としています。

Q. 相撲は日本の法令で定められた国技ですか?
相撲を国技と定めた法令は確認できません。政府は認定の基準も考え方も定めていない、と答えているためです。「法律で決まっている」と書かれた説明を見かけたら、上の答弁書に当たってみてください。

Q. 相撲が国技になったのはいつからですか?
法令上の起点はありません。認定の仕組みが無いためです。協会の文書でさかのぼれるのは、2022年3月28日施行の現行定款と、2011年の答弁書が引いた当時の寄附行為までで、それ以前にいつから書かれていたかは、今回確かめた範囲では分かりませんでした。

Q. 日本相撲協会は相撲を国技と呼んでいますか?
呼んでいます。定款の第3条のほか、公式サイトの「協会の使命・組織」に同じ文言が、相撲博物館の紹介にも「国技としての相撲資料」という書き方があります。一方「相撲の歴史」では「国技といわれ」と伝聞の形をとっています。

Q. なぜ「相撲は国技ではない」と言われるのですか?
法令に定めが無いことを指して、そう言われます。協会が自らの定款で国技と書いていることとは層が違う話なので、どちらか一方だけを見ると話が食い違って見えます。

Q. 国技館という名前は、相撲が国技だから付いたのですか?
名前の由来については、協会公式と相撲博物館の記載を2026年9月17日に探しましたが見つからなかったため、当サイトでは書きません。田口は明治42年の国技館開設を相撲史の分かれ目として書いています。

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この記事を書いた人

少年漫画雑誌、日経関連の編集者を経て独立。現在は大相撲を専門に取材するライター。ほぼ毎場所、自ら土俵際で撮影している。にほんブログ村 相撲・大相撲カテゴリでランキング1位。

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