一門とは、複数の相撲部屋がゆるやかに連なった系統のことである。巡業や理事選をともにする枠組みで、いまは出羽海・二所ノ関・時津風・高砂・伊勢ヶ濱などの系統がある。なかでも高砂一門は、明治の名力士・高砂浦五郎が興した高砂部屋を本家とし、分家が育ちにくかった歴史と、年寄株をめぐる理事選の攻防に特徴がある。
※本稿は筆者が高砂一門の系統と派閥の力学をたどったもので、一門シリーズの第3回にあたる。
一門別の部屋一覧|五系統と全45部屋(令和8年七月場所)
一門ごとに、本家の部屋と所属部屋、そして関取が何人いるかを並べた。部屋の数は五系統あわせて45、関取は幕内42人・十両28人の計70人である。
| 一門 | 本家 | 部屋数 | 所属部屋(部屋名) | 関取(令和8年七月場所) |
|---|---|---|---|---|
| 出羽海一門 | 出羽海部屋 | 14部屋 | 出羽海・春日野・境川・武蔵川・藤島・二子山・武隈・玉ノ井・雷・木瀬・尾上・山響・式秀・立浪 | 19人 |
| 二所ノ関一門 | 二所ノ関部屋 | 17部屋 | 二所ノ関・佐渡ヶ嶽・高田川・片男波・芝田山・押尾川・鳴戸・西岩・田子ノ浦・放駒・阿武松・大嶽・錣山・湊・湊川・中村・秀ノ山 | 23人 |
| 時津風一門 | 時津風部屋 | 5部屋 | 時津風・伊勢ノ海・追手風・荒汐・音羽山 | 11人 |
| 高砂一門 | 高砂部屋 | 4部屋 | 高砂・九重・八角・錦戸 | 6人 |
| 伊勢ヶ濱一門 | 伊勢ヶ濱部屋 | 5部屋 | 伊勢ヶ濱・浅香山・朝日山・安治川・大島 | 11人 |
部屋ごとの師匠・所在地まで見たいときは相撲部屋 一門 相関図|全45部屋の一覧・五系統に1行1部屋のマトリクスがある。出羽海一門の内訳は出羽海一門の部屋一覧|全14部屋、伊勢ヶ濱一門は本シリーズ第6回にまとめた。
高砂一門の4部屋|師匠・所在地・関取(令和8年七月場所)
高砂一門にあるのは高砂・九重・八角・錦戸の4部屋である。どの部屋がどの系統から分かれたのかは本稿の後段でたどる。師匠の欄は年寄名、その右が現役時代の最高位としこ名にあたる。
| 部屋 | 師匠(年寄名) | 師匠の現役時代 | 所在地 | 関取(令和8年七月場所) |
|---|---|---|---|---|
| 高砂部屋 | 高砂 浦五郎 | 関脇 朝赤龍 | 東京都墨田区石原2-30-1 | 前頭十 朝乃山 前頭十二 朝白龍 前頭十六 朝紅龍 十両筆頭 朝翠龍 |
| 九重部屋 | 九重 龍二 | 大関 千代大海 | 東京都葛飾区奥戸1-21-14 | 前頭十 千代翔馬 |
| 八角部屋 | 八角 信芳 | 横綱 北勝海 | 東京都墨田区亀沢1-16-1 | 十両五枚目 北の若 |
| 錦戸部屋 | 錦戸 眞幸 | 関脇 水戸泉 | 東京都墨田区亀沢1-16-7 | — |
高砂一門とは|分家が育たなかった名門
高砂部屋は、明治の風雲児・高砂浦五郎が創設した歴史ある相撲部屋である。ところが高砂部屋には、分家が育たないという伝統ができてしまった。高砂部屋直系の分家は、錦戸(元水戸泉)部屋と高田川(元安芸乃島)部屋である。錦戸部屋は弟子が少なく、危うい状態が続いている。

高田川の理事選と年寄株問題
高田川部屋は、元前の山が高砂部屋から独立して興した部屋である。ところが一門の意向に反して理事に立候補したため、破門になった。当時、元佐田の山の境川理事長は、年寄名跡を協会で一括管理するという方針を打ち出していた。元前の山は、この案に反対する急先鋒だった。
大金を投じて購入した年寄株が、協会の管理下では売却できなくなる。これは一大損失で、死活問題に直結する。元前の山の高田川は、無派閥のまま理事選に出馬した。そしてなんと当選する。高田川に賛同する者が、それだけ多かったことが判明したのである。

井筒の系統|錣山・音羽山へ
高砂部屋から独立した初代西ノ海が興した井筒部屋。その流れをくむ部屋がある。錣山(元豊真将)部屋と音羽山(元鶴竜)部屋である。逆鉾・寺尾の父は鶴ヶ嶺で、その師匠が先代鶴ヶ嶺だった。
先代鶴ヶ嶺は、師匠の死去後に二枚鑑札が認められず、双葉山相撲道場に身を寄せている。のちに引退して井筒部屋を復興した。この流れから、井筒は時津風一門に属している。かつての系統別総当たり制で、井筒部屋の力士と時津風部屋の力士が対戦しなかったのは、このいきさつがあったからだ。
元寺尾の錣山と、時津風部屋の分家である湊(元湊富士)部屋は、時津風一門の理事が元多賀竜の鏡山であることに不満をもっていた。一度は貴乃花一門に入ったが、貴乃花自身が一門を解消したため、二所ノ関一門に身を寄せている。貴乃花は弟子の暴力事件や一代年寄の扱いをめぐって批判を受け、みずから一門を解消した経緯がある。

高砂一門のいま
なお、出羽海一門を破門になった九重(元千代の山)部屋は、元前田山の高砂が一門に迎えた。それにしても高砂一門は、部屋数4・親方数11人と、ともに少ない。分家が育たなかった名門の歩みが、いまの規模にそのまま表れている。
高砂一門についてよくある質問
Q. 相撲の一門とは何ですか?
複数の相撲部屋がゆるやかに連なった系統のことです。巡業や理事選をともにする枠組みで、いまは出羽海・二所ノ関・時津風・高砂・伊勢ヶ濱などの系統があります。
Q. 高砂一門にはどんな部屋がありますか?
本家の高砂部屋を中心に、直系の分家として錦戸(元水戸泉)があります。出羽海一門を破門された九重部屋も、高砂一門に迎えられました。
Q. 高砂一門が小さいのはなぜですか?
高砂部屋には分家が育ちにくい伝統があったためです。部屋数4・親方数11人と、五系統のなかでも小さな一門です。
▶ 相撲の一門とは シリーズ:総論(五系統の仕組み)/①出羽海/②出羽海の分家/③高砂(本稿)/④時津風/⑤八甲山系・宮城野/⑥伊勢ヶ濱/⑦二所ノ関/⑧二所ノ関の分家 | 相撲部屋 一門 相関図|全45部屋の一覧/系統別インデックス/錦戸部屋のあゆみ