横綱昇進の事実上の基準は「直近2場所連続優勝、またはそれに準ずる成績」で、明文化された規定ではなく横綱審議委員会が運用してきた慣例である。千代の山以降の32人について、田口が昇進直前5場所の成績をすべて調べたところ、2場所連続優勝で昇進したのは12人にとどまった。鏡里は初優勝1回で、双羽黒は優勝なしで横綱になっている。直前5場所の成績がもっとも良かったのは貴乃花の66勝9敗だった。下の表に32人全員の5場所を1行ずつ並べた。
▶▶ 横綱になるまでの所要場所数(最速・遅咲き)は新入幕から横綱昇進まで何場所か、昇進・引退の年齢は横綱の昇進年齢と引退年齢へ。
成績表は田口が作成したものを一覧化した。◎はその場所の優勝。横綱昇進基準は明文化された規定ではなく、横綱審議委員会が運用してきた慣例である。
横綱昇進を決めた直前5場所の成績(千代の山〜稀勢の里・32人)
年6場所の時代は5場所くらいをみたほうがいい、と述べたのはNHK解説者だった玉の海梅吉氏である。その5場所で田口が歴代横綱の昇進前を調べたのが下の表になる。◎はその場所の優勝を表す。この記事の下のほうにある画像2枚が田口の作成した原典で、表はそれを1行ずつ文字に起こしたものである。
| 横綱 | 5場所前 | 4場所前 | 3場所前 | 2場所前 | 直前 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 千代の山 | ◎12勝3敗 | 9勝6敗 | 11勝4敗 | 8勝7敗 | ◎14勝1敗 | 54勝21敗 |
| 鏡里 | 12勝3敗 | 11勝4敗 | 11勝4敗 | 12勝3敗 | ◎14勝1敗 | 60勝15敗 |
| 吉葉山 | 6勝3敗6休 | 10勝5敗 | 14勝1敗 | 11勝4敗 | ◎15勝0敗 | 56勝13敗6休 |
| 栃錦 | 8勝7敗 | 9勝6敗 | 9勝6敗 | ◎14勝1敗 | ◎14勝1敗 | 54勝21敗 |
| 初代若乃花 | 10勝5敗 | 11勝4敗 | 11勝4敗 | 12勝3敗 | ◎13勝2敗 | 57勝18敗 |
| 朝潮 | 10勝5敗 | 11勝4敗 | ◎14勝1敗 | 11勝4敗 | 13勝2敗 | 59勝16敗 |
| 大鵬 | 10勝5敗 | 12勝3敗 | 11勝4敗 | ◎13勝2敗 | ◎12勝3敗 | 58勝17敗 |
| 柏戸 | ◎13勝2敗 | 12勝3敗 | 10勝5敗 | 11勝4敗 | 12勝3敗 | 58勝17敗 |
| 栃ノ海 | 10勝5敗 | 8勝7敗 | 11勝4敗 | ◎14勝1敗 | 13勝2敗 | 56勝19敗 |
| 佐田の山 | 11勝4敗 | 8勝7敗 | 13勝2敗 | 13勝2敗 | ◎13勝2敗 | 58勝17敗 |
| 横綱 | 5場所前 | 4場所前 | 3場所前 | 2場所前 | 直前 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 北の富士 | 9勝6敗 | 9勝6敗 | 12勝3敗 | ◎13勝2敗 | ◎13勝2敗 | 56勝19敗 |
| 玉の海 | 8勝7敗 | 9勝6敗 | ◎13勝2敗 | 10勝5敗 | 13勝2敗 | 53勝22敗 |
| 琴桜 | 1勝2敗12休 | 8勝7敗 | 9勝6敗 | ◎14勝1敗 | ◎14勝1敗 | 46勝17敗12休 |
| 輪島 | 13勝2敗 | 11勝4敗 | 11勝4敗 | 13勝2敗 | ◎15勝0敗 | 63勝12敗 |
| 北の湖 | 10勝5敗 | ◎14勝1敗 | 10勝5敗 | ◎13勝2敗 | 13勝2敗 | 60勝15敗 |
| 2代目若乃花 | 10勝5敗 | 10勝5敗 | 13勝2敗 | 13勝2敗 | 14勝1敗 | 60勝15敗 |
| 三重ノ海 | 10勝5敗 | 11勝4敗 | 10勝5敗 | 13勝2敗 | 14勝1敗 | 58勝17敗 |
| 千代の富士 | 11勝4敗 | ◎14勝1敗 | 11勝4敗 | 13勝2敗 | ◎14勝1敗 | 63勝12敗 |
| 隆の里 | 10勝5敗 | 8勝7敗 | 12勝3敗 | 13勝2敗 | ◎14勝1敗 | 60勝15敗(※) |
| 双羽黒 | 12勝3敗 | 10勝5敗 | 10勝5敗 | 12勝3敗 | 14勝1敗 | 58勝17敗 |
| 北勝海 | 12勝3敗 | 8勝7敗 | 11勝4敗 | ◎12勝3敗 | 13勝2敗 | 56勝19敗 |
| 大乃国 | 9勝6敗 | 9勝6敗 | ◎15勝0敗 | 12勝3敗 | 13勝2敗 | 58勝17敗 |
| 旭富士 | 8勝7敗 | 9勝6敗 | 8勝7敗 | ◎14勝1敗 | ◎14勝1敗 | 53勝22敗 |
| 曙 | ◎13勝2敗 | 全休 | 9勝6敗 | ◎14勝1敗 | ◎13勝2敗 | 49勝11敗15休 |
| 貴乃花 | 11勝4敗 | ◎14勝1敗 | 11勝4敗 | ◎15勝0敗 | ◎15勝0敗 | 66勝9敗 |
| 3代目若乃花 | 12勝3敗 | 10勝5敗 | 10勝5敗 | ◎14勝1敗 | ◎12勝3敗 | 58勝17敗 |
| 武蔵丸 | 11勝4敗 | 11勝4敗 | 8勝7敗 | ◎13勝2敗 | ◎13勝2敗 | 56勝19敗 |
| 朝青龍 | 11勝4敗 | 12勝3敗 | 10勝5敗 | ◎14勝1敗 | ◎14勝1敗 | 61勝14敗 |
| 白鵬 | 8勝7敗 | 全休 | 10勝5敗 | ◎13勝2敗 | ◎15勝0敗 | 46勝14敗15休 |
| 日馬富士 | 11勝4敗 | 11勝4敗 | 8勝7敗 | ◎15勝0敗 | ◎15勝0敗 | 60勝15敗 |
| 鶴竜 | 10勝5敗 | 9勝6敗 | 9勝6敗 | 14勝1敗 | ◎14勝1敗 | 56勝19敗 |
| 稀勢の里 | 13勝2敗 | 12勝3敗 | 10勝5敗 | 12勝3敗 | ◎14勝1敗 | 61勝14敗 |
2場所連続優勝で昇進したのは12人
上の表で、2場所前と直前の両方に◎が付いている横綱を数えると12人になる(32人中)。栃錦・大鵬・北の富士・琴桜・旭富士・曙・貴乃花・3代目若乃花・武蔵丸・朝青龍・白鵬・日馬富士である。基準として浸透している「2場所連続優勝」が、実際には昇進の過半に届いていないことがわかる。なおこの数え方は上の表から筆者が数えたもので、協会が公表している区分ではない。
逆に、直前5場所のなかに優勝が1度もないのは2代目若乃花・三重ノ海・双羽黒 の3人である。ただしこれは「この5場所のなかに優勝がない」という意味で、優勝経験そのものが無いわけではない。田口によれば、優勝の経験がないまま横綱になったのは双羽黒である。
優勝1回で横綱になった力士
田口が本文で挙げているのは次の顔ぶれである。いずれも横綱昇進の直前に初優勝を果たし、優勝経験1回のまま綱を張ることになった。
| 昇進のしかた | 該当する横綱 |
|---|---|
| 優勝の経験がないまま昇進 | 双羽黒 |
| 初優勝(優勝1回)で昇進 | 鏡里・吉葉山・柏戸・2代目若乃花・三重ノ海・大乃国・鶴竜・稀勢の里 |
| 連続優勝ではなく紛糾したすえ昇進 | 初代若乃花 |
| 連続優勝が絶対視され、昇進が遅れた | 旭富士・貴乃花 |
この表の出どころと、1か所だけ数が合わない行
上の表は、記事の下にある田口作成の画像2枚を文字に起こしたものである。転記の正しさは、各行の5場所ぶんの勝ち星・負け星・休みを足して合計欄と一致するかで機械的に確かめた。32人のうち31人は完全に一致した。
一致しなかったのは隆の里の行だけである。5場所を足すと57勝18敗になるが、原典の合計欄は60勝15敗となっている。どちらが正しいかを決められる材料がないため、5場所の値も合計欄も原典のまま載せ、この行にだけ(※)を付けた。こちらで辻褄を合わせる書き換えはしていない。
田口による横綱昇進の検証(2023年1月)
一月場所、貴景勝が優勝したことで、早くも三月場
所は横綱をかける場所という声があがっている。そ
れは2場所連続優勝が横綱昇進基準として浸透して
いるからである。しかし、この基準には危うさが潜
んでいる。
1.年6場所時代にわずか2場所だけという短期間
2.優勝といっても15戦全勝優勝と12勝3敗は同一視
できない
3.一時の勢いだけで決めてしまう

横綱は数字よりもどこからいっても万全、十分横綱
が務まる。となって初めて昇進できるものである。
そこまでいかないうちになったため横綱不十分の横
綱がずいぶん誕生した。
横綱審議委員誕生後、横綱の代でいえば千代の山以
降の横綱昇進をみていこう。年6場所時代は5場所
くらいをみたほうがいい、といったのはNHK解説者
だった玉の海梅吉氏である。横綱昇進直前5場所の
成績は以下となった。


千代の山は昇進2場所前8勝7敗である。現代なら
考えられない。思いあたるのは千代の山は新大関か
ら13勝、12勝で2場所連続優勝した実績があったこ
とである。なお、千代の山のころは年3場所である。

鏡里は5場所で60勝だから合格のように見える。実
は、横綱直前の優勝が初優勝だった。つまり優勝経
験1回で横綱になってしまった。なお、鏡里は年3
場所から4場所の成績である。

ほかには初優勝だけで横綱になった力士はいる。吉
葉山、柏戸、2代目若乃花、三重ノ海、大乃国、鶴
竜、稀勢の里と意外に多い。もっとも双羽黒は優勝
なしで横綱になってしまった。
初代若乃花の時は紛糾してなかなか決まらなかった。
初代若乃花は大関時代から横綱にひけをとらず強か
った。ただ連続優勝でないため、横綱審議委員がつ
くった2場所連続優勝の原則を自らくずすのかと舟
橋聖一氏ががんとして受付なかった。結局若乃花は
横綱に昇進した。責任感の強い若乃花はいままで以
上に稽古した。

横綱昇進直前5場所の最高成績は貴乃花である。貴
乃花の横綱は時間の問題といわれるほどだった。と
ころが連続優勝絶対の時代であったため、なかなか
なれなかった。最後は連続全勝優勝で決めた。

優勝なしの双羽黒を横綱にした反動からか、旭富士
から日馬富士まで2場所連続優勝しなければ横綱に
なれなかった。割をくったのは旭富士と貴乃花であ
った。3代目若乃花は2場所連続優勝で横綱に昇進
したが、横綱優勝はついになかった。
貴景勝はどのような結果をもたらすのか。一月場所
は12勝優勝だった。微妙ななかで三月場所迎えるこ
とになる。
横綱昇進の条件と成績についてよくある質問
Q. 横綱昇進の条件は何ですか?
事実上の基準は「直近2場所連続優勝、またはそれに準ずる成績」です。横綱審議委員会以降に浸透した慣例で、明文化された数字の規定ではありません。
Q. 優勝なし・優勝1回で横綱になった力士はいますか?
優勝なしで昇進したのは双羽黒。初優勝(優勝1回)で昇進したのは鏡里をはじめ、吉葉山・柏戸・2代目若乃花・三重ノ海・大乃国・鶴竜・稀勢の里がいます。
Q. 昇進直前の成績が最も良かった横綱は誰ですか?
昇進直前5場所の成績では貴乃花が最高でした。連続優勝が絶対視された時代で、最後は連続全勝優勝で昇進を決めました。
▶ 横綱データ:代位の順に全員並べた一覧は歴代横綱一覧|初代明石から第75代大の里まで全75人 | 昇進までの所要場所数は新入幕から横綱昇進まで何場所か | 昇進年齢・引退年齢は横綱の昇進年齢と引退年齢 | 優勝から遠ざかった記録は横綱で優勝なしの記録