小兵で食い下がる相撲で観客をわかしてきた
里山が十一月場所限りで引退した。最後は
幕下9枚目であった。十一月場所は3連敗と
先行き不安なスタートとなったが、ねばりを
発揮し、3連勝と盛り返してきた。そうして
最後の7番相撲に臨むことになった。対戦
相手は琴櫻の孫かつ琴ノ若の息子の琴鎌谷で
ある。
この対戦は最後里山の下手投げ、琴鎌谷の
上手投げのうち合いになり、両力士の体が
沈んでいった。里山がわずかに遅く、最後の
一番を勝利をあげるとともに勝ち越しを決め
た。里山は有終の美を飾って引退していった。
それにしてもこの一番は昭和45年五月場所の
横綱大鵬対横綱北の富士戦を思いおこす。
大鵬のすくい投げと北の富士の上手投げの
うち合いで両横綱の体が沈んでいった。最後
は大鵬が制し、北の富士の全勝優勝を阻止
した。
里山は十両を41場所も務めた。それに比べる
と幕内はわずか6場所に過ぎない。そのなか
でも忘れられない一番がある。それは平成
26年一月場所再入幕のときである。再入幕と
いっても新入幕から6年半くらい経っていた。
この場所は白星先行で進んだものの、14日目
を終えて7勝7敗で千秋楽を迎えることに
なった。そして里山の技能がかわれ、技能賞
候補にあがっていた。技能賞の条件は勝ち
越すことであった。対戦相手は9枚目の高安
である。高安は8勝6敗と既に勝ち越して
いた。
高安対里山戦は次のように展開した。里山は
もぐろうと低くはいるが、高安嫌って突き
離す。それでも里山は体勢を低くし、再度
もぐらんとした。低く密着したが、高安は
そうはいくかいとばかりに突きおこしにかか
る。この争いが長く続き、激しい一番になっ
ていった。最後、里山はまわしを取れない
ながらも押し込むと、高安はバランスをくず
し、腰から落ちていった。
ながらも押し込むと、高安はバランスをくず
し、腰から落ちていった。
里山が勝った。技能賞だ。誰もがそう思った。
だが次の瞬間物言いがついた。勝負は微妙
ではなかった。厭な予感がした。その結果
里山が高安の髷をつかんだとして反則負けに
なった。ああ、こんなむごいことがあろうか。
非情なことがあろうか。里山涙の技能賞受賞
ならずになってしまった。里山にとっては
たった1度の三賞のチャンスが、幻の技能賞
となってしまった。
貴乃花「角界追放劇」の全真相を読んでいます。
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