優勝争いは2敗若隆景・高安、3敗琴ノ若と
いう思いもよらぬ面々で千秋楽を迎えた。
ところが、千秋楽は波乱の連続となった。
まず、琴ノ若対7勝7敗の新小結豊昇龍戦
から始まった。激しい攻防の中、豊昇龍の
鋭い下手出し投げが瞬時に決まった。スピー
ド・切れ味文句のつけようのない技だった。
琴ノ若は4敗で優勝戦線を離脱した。
残り3番で登場したのが高安であった。阿炎
は新関脇で7勝7敗。勝とうとする意気込み
と堅くなる要素の両面があるが、阿炎は前者
だった。すさまじい突きの威力に高安は後退
し、まわり込んだが足を出したあと体勢を
くずしていった。阿炎、最高の相撲だった。
高安敗退もやむなしといえた。
結びに登場した若隆景はすでに勝ち越しを
決めている大関正代が対戦相手であった。
問題は正代の心理であった。なにしろ1勝
5敗から勝ち越したのである。ほっとして
当然である。気迫とともに連勝してきた正代。
その気迫はいささかも消えてなかった。若隆
景のおっつけにひるむことなく前へ出て圧倒
してしまった。
優勝戦線3力士がそろって敗れる大波乱。
優勝の行方は3敗若隆景と高安の決定戦で
決まることになった。この状況、当然ながら
帰る観客はいない。
優勝決定戦が始まった。この一戦にかける
高安の迫力は大変なモノであった。若隆景も
全身全霊でむかえうった。高安はここぞと
ばかりに圧力をかけるが、若隆景が土俵際
上手出し投げでかわした。若隆景の初優勝
達成の瞬間であった。波乱続きの三月場所は
予想外の展開でようやく幕を閉じた。