大相撲は他のスポーツに先駆けてビデオを導入したから
進歩的だ、と思われている節がある。しかし、導入の
きっかけは大鵬の連勝記録を誤審でストップした歴史的
汚点によるものである。いきさつは以下である。
5場所連続休場の大鵬は休場明けの1968(昭和43)年
九月場所の初日、技巧派の栃東に敗れた。しかし、この後
引き締め14連勝して優勝した。大鵬は翌場所、翌々場所を
15戦全勝して連勝を44にのばした。44連勝でむかえた三月
場所は初日曲者藤ノ川を一蹴して45連勝と記録をのばした。
世紀の大誤審はこの直後に起きた。2日目、大鵬は新鋭の
戸田(後の羽黒岩)と対戦した。戸田は立ち合いから大鵬
を押したてた。大鵬は交代しながら東土俵から正面に回り
こんだ。なおも押し立てる戸田だが、回り込んだ大鵬を
押すとき右足が土俵の外の砂をはねた。直後に大鵬が正面
土俵を割った。
行司の軍配は大鵬だが、物言いがついた。戸田はいい
相撲を取ったがおしかったな、と言うのが記者の感想で
あった。ところが、審判五人は戸田の勝ちと主張したのだ。
積み重ねた連勝が誤審でストップするというあってはなら
ないことがあってしまった。こうした批判に対応するかの
ようにビデオ導入が決まった。大相撲が続く限りこの
歴史的汚点は消えない。