現代では連勝というと1年以内のケースになる。事実、
白鵬が63連勝を達成したときも一月場所から十一月場所
までであった。双葉山は年2場所の時代だから、足かけ
4年にわたって勝ち続けたのである。双葉山の連勝は、
昭和11年春場所平幕のとき、当時の第一人者玉錦に敗れ
た翌日から始まっている。このとき双葉山が連勝をスタ
ートさせたとは、誰も想像できなかった。
それから双葉山は勝ち続け、5場所連続全勝優勝したの
である。まさに前人未到の偉業である。双葉山はいつま
で勝ち続けるのか。100連勝を目指しているのでは。双
葉山を倒すのは誰か。日本中が双葉山の連勝に沸いてい
た。
<双葉山のブロマイド>
打倒双葉山に燃えたのは名門出羽海部屋であった。特に
新鋭の安芸ノ海は面白いのでは、とみられていた。スピ
ードがあり、向こうづけの体勢になってのうまさがあっ
た。まだ双葉山とは顔があっていない強みがあった。と
いっても、誰も双葉山が安芸ノ海に負けるとは、微塵も
思っていなかった。
歴史的瞬間は昭和14年春場所4日目にやってきた。双葉
山、安芸ノ海が対戦。立ち上がるや安芸ノ海は突っ張っ
た。双葉山応戦して激しい突き合いのなか、安芸ノ海は
くいさがらんとする。双葉山それを許さず右ざし、双葉
山有利の組み手になった。だが、安芸ノ海は不得意の右
四つながら、両まわしを取り、くいさがる体勢となった。
双葉山はすくい投げを2度うつが、安芸ノ海は残すだけ
である。ここまでかと思ったとき、双葉山が3度目のす
くい投げにいった。その瞬間、安芸ノ海の左外掛けが双
葉山の足をかった。これにはさすがの双葉山もたまらず
崩れ落ちた。
<安芸ノ海のブロマイド>
国技館内は一瞬何がおきたかわからなかった。ありえな
いことが目の前でおきたのである。だが、我に返った瞬
間、観客は興奮の坩堝と化したのである。双葉山の70連
勝はこうしてストップされた。
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