大相撲の土俵は15尺である。出たら負けになるとい
う格闘技はほかにない。ほとんどの格闘技は組むか
離れて戦うかのどちらかである。ところが相撲は土
俵があるからどちらも兼ねる珍しい特徴をもつ。
15尺土俵に変わったのは昭和6年であった。きっか
けは4月29日の天皇誕生日に天覧相撲を奉仕したこ
とである。天皇陛下に十分な土俵の攻防を楽しんで
いただこうという趣旨であった。それまでは13尺土
俵であった。
力士にとまどいはあったものの、本場所ではその直
後の昭和6年夏場所から15尺土俵が使用されるよう
になった。しかし、もっと激しく土俵が揺れた日が
あった。戦後、昭和20年秋場所(11月)であった。
進駐軍の土俵が広いほうが面白いという声が協会に
入り、この場所16尺土俵にしたのである。食糧事情
が悪く、やせた力士からは突然のことに大いに驚い
た。試しということでやむなく受け入れざるを得な
かった。
この場所、双葉山は全休であったが、千秋楽の翌日
引退している。これは16尺土俵に対する抗議とみら
れた。双葉山は次のような趣旨を述べている。
1.興味本位で土俵を広げるなら勝負は長引くかもし
れない
2.レスリングやボクシングと対戦すればもっと面白
くなる
3.猛牛とやらせたらもうかること請け合い
さらに双葉山はこう語っている。狭い土俵で鍛錬し、
研究し、妙技を競うことこそ相撲道の第一歩、と。
16尺土俵は1場所で終わった。突き押しの力士の不
利は解消された。そして現在に脈々と続いている。