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対戦相手が信頼してぶつかれる相撲

三月場所千秋楽、白鵬の立ち合い手を出し左への変わり
身は、大阪の大相撲フアンの怒りをかった。思い起こせ
ば、白鵬は一月場所の栃煌山戦でも似たような取り口で
あった。この取り口について白鵬は「8ヶ月ぶりに賜杯を
抱きたいという気持ちがそこに出たかもしれません」と語っ
ている。
160327千秋楽幕内・表彰 844
<三月場所千秋楽 物議となった白鵬の立ち合い>
 
白鵬は、三月場所今までにない速攻、鋭い出足をみせて
きていた。好調稀勢の里、豪栄道は相撲を取らせてもらえ
ず完敗した。こうした相撲が白鵬優勝の原動力であった
だけに、千秋楽の相撲に対する観客の失望感は大きかっ
た。
勝つことが目的なら、勝ってしまえばそれでおしまいで
ある。双葉山が求めたものは相手から得られる勝利でも
なければ、観客の賞賛でもなかった。相撲を通じて自己
を高め、完成する求道者の姿勢であった。その双葉山は
どんな相撲を取ったか。昭和18年夏場所を観戦した小坂
秀二氏は、次のように述べている。
双葉山
<双葉山のブロマイド>
 
六日目、増位山戦-。増位山、仕切り三回目で機先を制
し立ち上がるや、一気に左を浅くのぞかせ前進すれば、
双葉山、たちまち東土俵につまったが、体をひねって左か
ら突き落とした。(中略)一四日目豊島戦-。豊島、はず
押しで東土俵に攻めこめば、双葉山棒立ちとなって危な
かったが、まわりこんで残し、左を差すと逆襲して寄り切
る。(中略)
増位山 
<増位山のブロマイド>
 
増位山にしても豊島にしても、その攻めこみはすばらし
かった。その二人のすばらしい押しに驚嘆しながら、私
は「おやっ」と思った。(中略)この両力士がその場所、
横綱羽黒山に対戦したときの相撲ぶりと比較してみた。
(中略)羽黒山に対しては、増位山は、八日目、豊島は
九日目に顔が合っている。結果は二人とも負けたのだが、
やはり立ち合いから押して出た。ところが、その押しが、
双葉山に対したときと微妙に違うのだ。
豊 島 
<豊島のブロマイド>
 
もちろん、羽黒山に対しても、全力をあげてぶつからな
ければ勝てるものではない。力を抜くなどということは
なく、全力をあげてはいるのだろうが、どこか違うのだ。
言うならば、双葉山には”安心して”ぶつかっている。体
ごと、双葉山にあずけてぶつかっている。体をあずけ
てぶつかっていけば、双葉山は必ず真っ向から受けて
くれる。ところが、羽黒山に対するときは、そこにわずか
ながらの不安があって、全身をあずけてぶつかっていか
れない。ひょっとしたら変わられるのではないかという
不安であろう。(中略)
羽黒山 (
<羽黒山のブロマイド>
 
それほど、相手の力士が信頼して当たっていけるという
こと。力士が命をかける土俵の上で、相手からそれほど
信頼される力士とは、じつにすばらしいことではないか。
双葉山の偉大さというものは、単に相撲が強いとか、優
勝が何回あるとかというだけのものではないことを痛感
させられた。(がちんこ相撲ーだれが現代の双葉山かー
いんな とりっぷ社刊より)
白鵬と双葉山の違いはこんな点にもある。双葉山は、到
達できない偉大な横綱であり、横綱の理想像であった。

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この記事を書いた人

無類の相撲好き。本場所は地方場所を含めて年間半分くらい観戦しています。大相撲に農閑期はなく、随時執筆していきます。興味深く読んでいただければ幸いです。お問い合わせなどあれば管理をお願いしてる masaguramさんまでX(Twitter)ください。

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