大横綱 朝青龍、その言葉の力

――土俵内外で語られた名言集――


はじめに

近年の大相撲史において、朝青龍ほど強烈なインパクトを残した力士は珍しいでしょう。第68代横綱となり、モンゴル出身でありながら日本の角界で数多くの伝説を作り、時にその“型破り”な振る舞いで世間を騒がせました。
本記事では、そんな朝青龍が残した数々の言葉をたどりながら、その波瀾万丈なキャリアを振り返ります。自信あふれる言葉の裏側には、彼の反骨精神や悩み、そして周囲への感謝がにじみ出ています。


1. 入門当初の初心と闘志

目標は旭鷲山関と千代大海関です。 一生懸命頑張って、お父さんとお母さんを喜ばせたい。
入門したての朝青龍は、先輩力士への尊敬と家族を思う純粋な気持ちを率直に口にしていました。まだ体格にも恵まれなかった彼ですが、師匠の高砂親方が見抜いたように、その負けん気の強さこそが後の大躍進の原動力。

「朝青龍は、体は大きくなかったけど、負けん気むき出しで、まさにピッタリだった」(高砂親方)

この頃はまだ控えめな口調ながらも、すでに心の中には強い野心が宿っていたのです。


2. 横綱としての圧倒的な自信

俺のライバル? いないなぁ
横綱に昇進した後の朝青龍は、その強さに裏打ちされた自信を隠そうとしませんでした。世間からは「傲慢」と見られることもありましたが、実際に彼の強さは誰しもが認めるところ。

「俺を好きとか嫌いとかはどうでもいい。 でも俺の相撲はみんな見たいんだよ。」

この言葉には、周囲の評価よりも“土俵上でのパフォーマンス”こそが自分の本質だという誇りが感じられます。朝青龍は批判を恐れず、むしろそれすらも闘志に変える力士でした。


3. 騒動とその言葉に映る人間性

朝青龍といえば、数多くの“騒動”も思い出されます。

  • 草サッカー騒動:療養中にモンゴルでサッカーに興じていたことが発覚
  • 暴行騒動:引退の直接的なきっかけになった事件

その中で本人が発した言葉からは、単なる“やんちゃ”以上の人間模様が垣間見えます。

「本気で怒ってキレたらね、大変なことになりますよ。…それがなぜ鼻(の骨を)を折ったとかね。そんなものじゃない」
「でも、こっち(マスコミや相撲協会など)から来る力と立ち向かう力に差がある。…自分が1人では勝てないですよ」

報道内容への不満を口にしつつ、周囲の巨大な力に対して独力では抗いきれない無力感を吐露する姿に、彼の葛藤がにじんでいます。また、高砂親方は次のようにも語っています。

「力士には怒って伸びる力士と、ダメになる力士がいる。 朝青龍は後者だ」

過度のプレッシャーに晒されたときの弱さを指摘する言葉ですが、それもまた彼が人間味あふれる存在だった証拠でしょう。


4. 相撲への真摯な姿勢と葛藤

最高の男たちに負けない体を作ってぶつかりたい。
若いころのこの発言には、強豪力士たちとの真剣勝負を心から望む熱い気持ちが込められています。また、「横綱相撲とは何か?」を付け人に問い続けていたエピソードや、「俺の仕事は横綱だよね正解。」という言葉などからは、横綱の責任とその理想像を模索していた一面も見えてきます。
時には涙ながらに「なんでわかってくれないんだ!」と訴えたとも言われ、周囲に理解されない苦悩も大きかったようです。華やかな勝利の陰で、朝青龍は“横綱としての正しさ”と“自分のスタイル”のはざまで常に揺れていたのかもしれません。


5. 引退時に見せた感謝と決意

私の身体の中には二つの心臓があります。 生んでくれたモンゴルと、育ててくれた日本。
引退を決断した朝青龍が残したこの言葉は、故郷モンゴルと力士としての人生を築いた日本への感謝を表し、多くの人々の胸を打ちました。
さらに、引退会見での「けじめをつけるのは自分」という発言も印象的です。自らの行動に対する責任を取り、自分自身で幕を下ろすという覚悟がうかがえます。

「モンゴルの大草原の少年を横綱まで支えてくれて、感謝している」

これらの言葉に、朝青龍の原点と、その頂点まで押し上げた周囲への素直な思いが集約されています。


6. 引退後もなお続く“朝青龍節”

引退後、朝青龍は相撲界から完全に離れたわけではありません。

  • 甥の豊昇龍が横綱に昇進した際は、「大喜び」の様子が報じられ、相撲への情熱が今も消えていないことがうかがえます。
  • SNSやメディアでの発言も相変わらずストレートで、ファンを沸かせる“朝青龍節”は健在です。

7. 朝青龍語録が映す“多面的な魅力”

朝青龍が残した言葉は、単なるビッグマウスにとどまりません。そこには、

  1. 自信――「俺のライバル? いないなぁ」
  2. 反骨心――「俺を好きとか嫌いとかどうでもいい。 でも俺の相撲はみんな見たいんだよ。」
  3. 葛藤や苦悩――「なんでわかってくれないんだ!」
  4. 感謝や責任感――「私の身体の中には二つの心臓があります。…」

といった、彼の複雑な人柄が凝縮されています。大相撲という伝統的な世界観の中で“異端児”とも言われた朝青龍の姿は、多くの議論を巻き起こしましたが、それもまた彼が残した大きな足跡のひとつでしょう。


おわりに

“青い目のモンゴル人”と評され、豪快な取り口と奔放な言動で注目を浴びた朝青龍。彼の言葉は、時に他者を驚かせ、時に反発を招きながらも、そのひとつひとつがファンの心を揺さぶり続けてきました。

引退した今もなお、SNSやメディアを通じて発信される“朝青龍節”には変わらぬ魅力があります。何より、どの言葉にも彼の“真摯な相撲への想い”と“型にとらわれない自由な魂”が込められているからこそ、多くの人の胸に残り続けるのではないでしょうか。

彼が築いた“異端の横綱像”は、これからも相撲界に影響を与え、語り継がれていくに違いありません。